脳:簡単に、単純に考える
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また、羽生善治の本である。ラグビーの監督、スポーツ評論家、ロボット研究者と異なる分野の人間と話しても、誰にでも対応できる力は普通じゃない。この本で印象に残ったのは、①手と脳の関係、②20代から30代にかけての思考スタイルの変化、この二つである。
「逆球」というのが野球ででてくる。これは、ピッチャーが投げる瞬間に、打者の構えの変化をみて、その時点で相手の狙いをはずすところに投げ、危険を回避する場合を言う。将棋でも、手に駒を持って、盤上に置く瞬間に、それが悪手であることがわかる場合があるという。手と脳の間でショーットカットという言葉を対談の中では使っていたが、私に言わせれば、手から脳にいたる経路に、様々な知識が埋め込まれているのではないかと考える。野球選手にマッサージを禁止した球団社長がいたそうで、これは筋肉が覚えた練習の知識をマッサージでなくすことを恐れたとか。棋士が、パソコンでマウスをクリックして棋譜を見るのではなく、駒を並べて、手で動かさないと記憶できないのも、同じように理解できる。
次に、20代から30代での思考スタイルの変化である。20代は直感力や記憶力が充実しているが、30代になるとその力は衰えてくるので、経験を活かすことが重要になってくるという。ただし、どちらが強いかはわからないという。コンピュータ将棋でいえば、探索エンジンからデータベース重視への移行だろうか。一般的に、20代の思考は直線的で、30代過ぎたころから脳の中にいろいろなリンクが張られるといわれる。私自身も年をとるごとに、新しい経験や言葉に遭遇した時に、過去の様々な記憶とリンクが張られ、新しいtasteを感じるのである。その結びつきが異なる分野であればあるほど、tasteは深い。それは、20代では感じることができない、とても繊細で、とても感慨深いものなのである。
ところで、彼はとてつもなく優れた頭脳を持ち、様々な分野に興味を持ち、それでも棋士を続けている。将棋ってそんなに面白いものなのでしょうか。私の知り合いでコンピュータ将棋のプログラマがいる。彼に、そろそろ将棋のプログラムって飽きてきたでしょう、他のゲームに変えていかないの、と聞いてみたことがある。しかし、プログラマ曰く、いくらやっても飽きない、将棋のプログラム作るのは本当に面白い、と。どうも、将棋そのものが一生費やしても面白い代物らしい。
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コメント2件
ekseak37さん、BONANNZA(ボナンザ)の情報ありがとうございました。噂でちらっと聞いていたのですが、フリーソフトというのがすごいですね。将棋ソフトが売れなくなる!今後もコメントいただけるとうれしいです。
Simple Life in the Digital Age、
始めて読まさせてもらいました。
いやはやsamさんの趣味の多さと洞察力にはなかなか
興味深いものが多いですね。
私も実は元将棋アマ2段の端くれだったの、で羽生がプロ棋士に
なったときから彼のことは知っているのですが、彼の頭脳・センスは
半端じゃありません。何せ中学生でプロ棋士になったのは70年近い
近代将棋の歴史でわずか羽生を含めて3人だけ、しかも名人含む
当時のすべてのタイトル戦を全獲得したのも大山15世永世名人と
彼だけしかいない大記録なのですから。
あと将棋プログラムですの件のくだりですが、PSとかWiiなどの
最新の派手なファミコンは別とすれば、将棋プログラムは実は
裏業界で実は今「最も」ホットなゲームです。
オセロは’97年にコンピュータが人間チャンピオンを破りそれ以来
人間は一度も勝ててません。
チェスも’06で同様にコンピュータが世界王者と6戦戦い、2勝4分と
負けがありません。
囲碁は手の評価が難しすぎるのか、まだアマ初段のレベルです。
で肝心の将棋ですが 昨年突然としてあるフリーソフトが県代表
クラスのトップアマといい勝負をする、というニュースが出て、
コンピュータ将棋界に一代革命を起こしています。
このソフトの作者(カナダ在住)は、将棋はルール程度しか知らないが、
チェスの手評価関数を将棋に当てはめてみたところ、安物ハードで
あるにもかかわらず、これまで開発された国産ソフトを次々と
破る、という快挙をなしとげ、エポックメーキングな現象を
関係者に与えています。
ちなみに、このソフトBONANNZA(ボナンザ)といいます。
素人がフリーソフトでこの程度のプログラムができるのなら、
さらに研究を続ければ、数年後にはプロに勝てるかも、、、という
ことで熱を上げている関係者がたくさんいるようです。
はじめから長文になりましたが、今日はこれまで。