本:アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ

4795843422 アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ
横田 増生

情報センター出版局 2005-04
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非常に面白く読んだ。久々に一気に読める本だった。配送センターの実態から入り、アマゾンジャパンの実像が見えてくるという意味で、良い本だと思う。著者が実際に配送センターで半年アルバイトした経験が記されているのだから、貴重な記録であることに間違いない。ただし、問題提起として労働の二極化を強調している点には、ことさらアマゾンだけではないだろうと思った。このニューエコノミーの時代を浮き彫りにするという意味で、アマゾンを取り上げたとは思う。しかし、これはアマゾンの問題ではなく、配送業日通の問題ではないのだろうか。そういう意味で、アマゾンにもっとフォーカスして、取次ぎがなくなる時、どのようなことがこの業界で発生していくのか、アマゾンのシステムはどうなっていくのか、ということを書いても良かったように思う。


著者が書きたかったのは、ニューエコノミーの中で労働の二極化なのだろうが、これはもっとその広がりに関して書いていかないと説得力がないように思う。問題が配送業なのか、それ以外の業種なのか、もう一つわからない。多くのネットショップは、自分で作り、自分で梱包しているように思う。労働の二極化に関しては、さらに著者が掘り下げてくれることを期待して、以下アマゾンの作り出したビジネスの今後を考えてみたい。

アマゾンって何だろう。アマゾンの企業ドメインはどこなんだろう。売る人と買う人を仲介するマーケットプレイスであることは間違いない。今は、モノを売ることにしているから在庫をかかえた配送センターだが、デジタルデータを売るようになれば、ダウンロード販売に力を入れることになるだろう。だから、彼らが重要視しているのは、顧客を集めることであり、顧客の購買データを蓄積することだ。そしてデータマイニングが意味を持ってくる。買う人間を直接知っていること、お金を回収できること、ここに注力している。間接ではなく、直接であることに意味がある。セブンイレブンが強くなるのも、顧客の購買データを持っているからだ。しかし、かれらは顧客の特徴くらいしか分析できない。アマゾンは、特定の個人の好みを知っており、その人のための個店を提示できるのだ。実際に目指しているのは、これだけだ。とてもシンプル。だが、構築するのはとても難しい。しかし、彼らは成功しつつある。ここで、保険を売ったり、株を売ったて良いのだ。

アマゾンが作ったシステムは、マーケットプレイスであり、販売者と購買者を直接結びつける。そこには、販売だけでなく、オークションもある。共同購入などの仕組みやアマゾンブランドの商品販売などもできるし、システムを他の人に提供する第三者委託といった仕組みも実現できる。直接購入する人間をつかまえておけば、はっきりいって何でもできる。そこに注力している。送料を無料にしたり、大幅なディスカウント、そしてアフィリエートのいろいろな仕組み、マイストア、購買履歴のデータマイニング、買う人を集めるために貪欲だ。そういうところは、この本の著者には欠けている視点だ。そういう意味では、アマゾンを語った本としては、本書ははずしているかもしれない。あくまでも物流業界という視点が、本質をとらえるのに邪魔をしている。

前に、アマゾンを論じたときに、サイトが重要ではなくて、背後に物流システムがあることが追従を許さないところだと、強調したことがある。しかし、どうもこれは間違っているようだ。本質は、購買者を集め、その購買履歴を集めることにある。つまり、ひとりひとりの顧客を知ることである。そしてひとりひとりに飛び切り気の利いたセールスエージェントをつけることである。アマゾンが物流センターを作ったのは、顧客が24時間以内に注文したものを届けて欲しいと言ったからである。つまり、顧客の言うことに耳を傾け、顧客の要望を実現しているだけなのだ。次に顧客が不動産が欲しいといえば、不動産を扱うし、自動車が欲しいといえば自動車を扱うだろう。この本の著者も含めて、アマゾンの仕組みはだれでも作れる、というような言い方をしているが、実はこれは間違いだ。アマゾンの仕組みを作っても、そこにある数以上の購買データがなければ、この仕組みは成立しない。そして、顧客を集めて維持することが、どれだけ大変なことか、サイトを運用した人間にしかその苦労はわからない。それは、技術であり、マーケティングであり、デザインであり、サポートであり、つまりビジネスの要素すべてにおいて、ある一定基準を満たし、しかもそれらが渾然一体となって機能しなければ、できない。その難しさは、傍で見ている人間にはわからない。

しかし、こう考えると、アマゾンって、なんて基本に忠実なんだろう。そして、それを守ることが難しいのに、果敢に挑戦して実現する。これは、意志がなければできないことだと思いませんか。

2005年09月27日 | Posted in | | No Comments » 

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