Topics>専門家とオタク
オタク市場の研究 野村総合研究所オタク市場予測チーム 東洋経済新報社 2005-10-14 |
「おたく」の精神史 一九八〇年代論 大塚 英志 講談社 2004-02-21 |
オタク市場についてまとめられた本がでて、それほどネガティブではないオタクというイメージが定着しつつあり、竹中平蔵があるTV番組で語るときにはオタクはほとんど専門家という意味で使われたりしている。80年代に生まれたこの言葉は死語とならず今に生き延びていることを考えると、現在を考える上でいまだキーワード足りえるのだろう。
おたくという言葉はこうして20年以上生き延びてきたわけであるが、これはマニアを言い換えたようなところがあるので、かなり「おたく」の表層だけが残っているような違和感ある。大塚英志の本を読むと「おたく」と「オタク」と「ヲタク」でも微妙に用法が異なるようだ。「おたく」が80年代のものとすると、最近でてくるのは「オタク」。「おたく」には、宮崎勤、オウム真理教、酒鬼薔薇がまとわりついており、この「おたく」は既に蓋をされているのかもしれない。今の「オタク」は、「萌え」や「アキバ系」と一緒に語られる無害なものである。しかし、どうしてものこの言葉には悪いイメージがつきまとわっているので、専門家を語るならば、もっと新しい言葉を与えるべきだろう。日本語でコンピュータオタクと訳される「Nerd」や「Geek」ももっと別の訳し方があるように思う。
「オタク市場の研究」では、オタクの特徴として①こだわりあるものへの高額消費②創造性③情報発信者を挙げている。当然のことながら、特定のジャンルの専門家である。しかもその対象は、アニメ、コミック、PC,AV機器、車、旅行など一般的に趣味といわれるもので、仕事ではない。大塚の本では、こだわり・専門性、自らの創作などが「おたく」の特徴として挙げられ、最後に成熟からの逃避を強調している。こうやって考えると、今まで仕事に生きるという考え方が主流だったところに、趣味に生きるという人間に交代しつつあるように思える。多くのサラリーマンというのは、与えられた仕事や役割を全うすることで生活の糧を得てきた。ところが、それによって得られたものでもし人生における充実感がなかったら、あるいはそれを傍で見ていてつまらないと思ったとき、次の世代が起こす行動はどんなものだろうか。自分自身が社会や会社の歯車の一つに過ぎないことは誰でも理解している。しかし、好きなこと、楽しいことをして、しかも生活することは、今までの社会ではかなり難しかった。ほんの一部の実力のある人間だけが可能だった。だから多くの人はサラリーマンになるのである。しかし、このオタク市場が立ち上がってくると、好きなことをして生活できる人間は、さらに増えてくることが予測できる。それは、自分のコミュニティの中で情報発信や創作したものを販売することができるからだ。
「おたく」も「オタク」ももう使うのはやめよう。もっと自立できる専門家にふさわしい呼称をつけよう。そしてこういうコミュニティを育てることによって、好きなことをして、楽しみながら、生活できる人間が増えるような社会を作っていくべきだろう。ブログにしてもポッドキャスティングにしても、どんどん使って、面白い市場を形成することは、現実可能だろう。80年代に「おたく」という言葉が生まれ、20年後も残っていることを考えると、おそらくこのコンゼプトを支持している人間がどんどん増えていることは間違いない。
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