私的複製とiPad
iPadを使い始めて1か月ほど経った。
iPhone、iPod touchでは、デジタルコンテンツとしてオーディオとゲームを主に使った。そして、iPadが加わって、ブック、ビデオも使うようになった。今までデジタルコンテンツを利用はしていたが、オーディオ以外の利用頻度は低かった。iPadによって、コンピュータの知識を必要とせず、誰でもデジタルコンテンツを利用できるようになった意義は大きい。iPadなどのコンテンツプレイヤーがさらに低価格で提供されるようになると、いろいろなところで社会的に影響がでてくるだろう。
その発端は、私的複製ではないだろうか。
私的複製の現在
私的複製というのは、利用者にとって非常に都合のいい権利だ。この複製という概念は、物理的なものに対して考えられていたから、私的複製という例外が許されていた。すなわち、複製には相応のコストがかかる、個人で複製すれば割高になるという想定があった。ところが、デジタルコンテンツになり、複製するコストがほとんどタダになり、複製する機器が個人で購入できることになると、私的複製という例外は権利者のビジネスに影響を及ぼすことになってきた。そこで、私的複製の範囲を制限する規定が加わり、3つになった。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合 |
二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合 |
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合 |
主に、①は複写機、②はゲーム機、③はインターネットというテクノロジーのおかげでついた制限事項だ。しかし、この制約を破って私的複製を行っても、これらは親告罪であり、②と③に関しては、自宅で行われている限り、損害賠償を請求することは不可能だろう。制限がこの程度に抑えられている理由はいろいろある。それについて述べる前に、現状できることをおさらいしてみよう。
デジタルコンテンツの私的複製
まず私がインターネットの中を探し回って得た、法律で許諾された私的複製に関する見解は以下のとおり。
(もし間違っているところがあれば、ご指摘ください。)
メディア | 私的複製 | 使用範囲 |
ブック |
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オーディオ |
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コピーコントロールやアクセスコントロールのある場合
メディア | 私的複製 | 使用範囲 |
ビデオ (地上デジタル、衛星デジタル) |
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ビデオ(DVD) |
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ゲーム | 複製防止の技術的保護手段があるため、私的複製はできない。 |
すなわち、ブック、オーディオ、ビデオに関しては、合法的に非常にローコストで私的複製を作成することができる。 ゲームだけは、合法的に私的複製は許されていない状況である。ただし、自宅で私的複製を制限することも、損害賠償を請求することも現実的にはできないと考えられる。
これが現状だ。もちろん、私的複製したデジタルコンテンツを販売したり、インターネット上で共有すれば警察に捕まる。
コピーコントロールとアクセスコントロール
コピーと著作権法、不正競争防止法の関係 |
著作権法 | |||
民事的救済 | 刑事罰 | ||
コピーコントロール | 回避を伴う私的複製 | 差止請求権(民法上の損害賠償請求権) | なし(第119条第1号カッコ書き) |
回避専用装置等の「譲渡等」 | (民法上の損害賠償請求権) | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可) | |
アクセスコントロール | 回避を伴う私的複製 | なし | なし |
回避専用装置等の「譲渡等」 | なし | なし |
不正競争防止法 | |||
民事的救済 | 刑事罰 | ||
コピーコントロール | 回避を伴う私的複製 | なし | なし |
回避専用装置等の「譲渡等」 | 差止請求権 | なし | |
アクセスコントロール | 回避を伴う私的複製 | なし | なし |
回避専用装置等の「譲渡等」 | 差止請求権 損害賠償請求権 |
なし |
※2006年1月の文化審議会 著作権分科会報告から引用
現状の法律をまとめると以下のようになる。
1. 警察に捕まる行為。
- 複製防止の技術的保護手段の回避装置の譲渡
- 複製防止の技術的保護手段の回避による複製
- アクセスコントロールの技術的保護手段の回避装置の譲渡
- 権利者に無断でアップロードされたファイルのダウンロード
しかし、上記3点の実行した場合でも、権利者が訴えるのは難しい。
デジタルコンテンツビジネスを成立させるために
それでは、どうすればビジネスが成立するのか?
その答えが、iPadやそれに続くコンテンツプレーヤーと課金システムだ。
パラダイムが変わった時は、法の改正も議論もあまり役に立たない。 解決は、新しいリーズナブルなビジネスモデルやプラットフォームに委ねるしかないだろう。
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