百冊023:ジェフ・ベゾス

12年ぶりに「百冊」シリーズが復活。

「なぜ、12年間紹介する本がなかったのか」、今となっては思い出せません。
気が付かなかっただけかもしれません。

ジェフ・ベゾス 発明と急成長をくりかえすアマゾンをいかに生み育てたのか」は、2022年4月に翻訳が出ました。
とても面白く、後半は一気に読める本でした。

著者のブラッド・ストーンは、「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」(2014年1月日本で出版)を以前に書いています。
本書はその続編で、2010年以降のAmazonとジェフ・ベゾスを扱っています。

実は、Amazonの2010年代が最もダイナミックで大きく変貌を遂げた時期でした。
本書の内容から、私がポイントとして上げたいのは、以下3点。

  1. 「成功したプロジェクト」
  2. 「なりふり構わず、儲ける!」
  3. 「そして、変わり始める」

それでは、順に話を進めていきましょう。

成功したプロジェクト

私達が知らない間に、Amazonは2010年代大きく変わっていました。
以下の表を見てください。
(1ドル=100円で換算なので、今の日本円ならさらに大きくなります。2022年8月現在)

2010年12月31日2018年12月31日2021年12月31日
年間純売上高3兆4200億円
(342億ドル)
23兆2890億円
(2328億9000万ドル)
46兆9822億円
(4698億2200万ドル)
従業員数3万3700人64万7500人160万人
時価総額8兆460億円
(804億6000万ドル)
73兆4410億円
(7344億1000万ドル)
163兆5290億円
(1兆6352億9000万ドル)
ベゾスの個人資産1兆5860億円
(158億6000万ドル)
12兆4930億円
(1249億3000万ドル)
21兆1000億円
(2110億ドル)

売上15倍、従業員数40倍、時価総額20倍です。

この急成長を支えたのは、いくつかのプロジェクトの成功です。

  • Amazon Echo
    私の今までの印象では、ジェフ・ベゾスは金融工学にも詳しい経営者だと思っていました。
    しかし、本書での「Amazon Echo」の開発の関わり方を見て、ベースは技術者であることがわかりました。私が「Amazon Echo」を最初に買ったのは、2018年1月でした。今でも、「Echo Show 5」2台、「Echo Dot」1台が稼働しています。最初買った時は、Amazonが買収した会社が開発したものだと思っていました。だから、内部で開発されたことを知ってかなり驚きがありました。本書では、「Amazon Echo」の開発プロセスが具体的に述べられていて興味深い。Appleと似たような開発体制だと思いました。まずコンセプトがあり、必要な技術を社内で探し、なければ世界中から技術を探してきて、見つけた会社を技術者ごと買収する。だから、ジェフ・ベゾスのコンセプトがまずあって、それに見合う技術を選択してくる。ある意味、技術や技術者は使い捨てのような感じで、製品が完成すればお払い箱のイメージがあります。まあ、AppleのiPhone開発者でも、もうApple社内に残っている人はいないのと同じようなものです。
  • AWS
    2006年からサービスを開始しているから、クラウドサービスのノウハウが蓄積されていたと思う。内部で管理できるような独自データベースの開発、データセンターで買収した会社の独自チップを採用した基板でローコストな運営、を他社より早めに着手できた。
    それから、料金体系を考えたのはジェフ・ベゾスらしい。ここら辺が単なる技術者ではなく、「算盤が上手な技術者」という異能者なんでしょう。
  • Amazon Prime Video
    Amazon Prime会員にPrime Videoを無料で配信、というアイディアはジェフ・ベゾスのものらしい。

もちろん、Fire Phoneなどの大失敗もありますが、撤退の速さも有効な戦略だったと思います。

なりふり構わず、儲ける!

2010年代の売上急上昇は、成功したプロジェクトの影響はありますが、それ以上に貢献したのが「禁断の技」にあったように思います。

  • FBAとマーケットプレイス
    FBAはサードパーティに商品をAmazon倉庫に預けさせるサービス、そしてマーケットプレイスはサードパーティがセルフサービスでAmazonのサイトに商品を載せられるサービス。この2つが連動することにより、サードパーティが自分の判断でAmazonのサイトを使って商売ができ、顧客には最適でローコストな配送が提供できる。
    もちろん、eBayからサードパーティを奪い取るような効果は期待できますが、悪いサードパーティに足を引っ張られる危険性もあります。
  • Amazonプライベートブランド
    Amazon Basicなど様々なプライベートブランドを持っている。そこで、問題となっていたのがサードパーティの売上情報を基に、売れそうなプライベートブランド商品を開発するというもの。Amazonそのものは否定しているが、Amazonのプライベートブランド担当者はその売上情報から企画するのが最も効率がいい。
  • 物流コストの削減
    物流コストを抑えるために、Amazon自前の物流ラインの構築や倉庫作業員の賃金を抑え、労働組合結成の阻止など、様々な策を実施していたことが明らかになっている。他のテック企業と異なり、非正規労働者を大量に抱えている。ジェフ・ベゾスは、頭脳労働者以外の人たちに対してかなり冷酷です。
  • Amazon内検索広告
    Amazon内で商品検索をした時に、広告を表示する。最初は、顧客の利便性を考えて広告はなかった。お金を出して検索結果のトップに広告を表示する。当然のごとくその広告のクリックは増加し、売上も上がる。これをやり出したら、予想以上に利益が出ることがわかった。もう顧客にいい商品を紹介することより、お金を出してくれる商品を選ばせることにAmazonそのものが加担してしまうようになる。

上記の問題は、プラットフォーマーとプレイヤーを兼ねる際に常に発生する。
プラットフォーマーとしての優位な立場を使えば、1プレイヤーとして参加した場合常に有利だからです。2010年代のAmazonは、プラットフォーマーの上品さを捨てて、「なりふり構わず、儲ける」に走ったのです。

そして、変わり始める

2021年7月5日ジェフ・ベゾスは、Amazon CEOを退任。取締役執行会長に就任。Amazonの労働者問題など煩雑な業務が嫌になってきたのかもしれない。

GAFAMの創業者を眺めてみても、ジェフ・ベゾスは突出した経営者であることがわかる。
Google、Apple、FaceBook(Meta)、Microsoftの創業者は、すべて技術者であるが経営者のイメージは薄い。売上は、魅力的な製品・サービスを提供すれば付いてくる。そう思っているように感じる。

しかし、ジェフ・ベゾスは、最初から技術者であり経営者だった。しかも、最初に手掛けたのが金融サービスやデータセンター。間違いなく、クラウドビジネスの先駆者だった。

CEOを退任したが、ジェフ・ベゾスに似ていると私が勝手に思っている経営者、UNIQLOの柳井社長のように、会長から社長に舞い戻ってしまうかもしれない。

今のAmazonに私は満足していない。2021年12月にプライム会員は退会している。現在は、PayPayモールなどを主に使っている。

Amazonの魅力が落ちてきたと思っているポイントは以下2点。

  • 怪しい中国粗悪品が堂々と販売されている
    AKRacingのまがい物GTRacingを2年ほど前に購入。買った理由は、「Amazonおすすめ」商品になっていた。
    1600人のレビューの平均点が4以上で、価格がAKRacingの半額3万程度。実際には、安っぽくて使えない粗悪品。
    まったく、Amazonのレビューが信じられなくなった。
    もちろん、ほんの一部で起こっていることだが、出品者のチェックを厳しくすべきだろう。
  • 安くない
    最近PayPayモールと比較してから購入することにしている。ポイントの付き方がAmazonは少ない。
    価格そのものもPayPayモールの方が安い店がある。3000円以上の商品ではほとんど送料無料。
    これでは、Amazonを選択する頻度はどんどん落ちても仕方がない。

ジェフ・ベゾスがCEOに戻ってこなくてもいいが、さらに他社を圧倒するような攻撃的でお得なサービスを展開してほしい。

2022年08月07日 | Posted in 電脳:百冊 | タグ: , , , No Comments » 

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