「書斎の王様」にみる1980年代の書斎
書斎の王様 図書編集部 岩波書店 1985-12 |
岩波新書の黄版である。17人の書斎に関連した文章が掲載されている。そのうち14人が自分の書斎について紹介している。
その14人の内訳を列挙すると、 |
大江志及夫 | 大学教授 | 家・書庫 |
尾崎秀樹 | 文芸評論家 | 家・書庫 |
小田島雄志 | 大学教授 | 喫茶店 |
倉田喜弘 | 芸能史研究家 | 家 |
小泉喜美子 | ミステリー作家 | 家 |
椎名誠 | 作家 | 電車 |
杉浦明平 | 作家 | 家・書庫 |
立花隆 | 評論家 | 個人オフィス・書庫 |
永瀬清子 | 詩人 | 家 |
林京子 | 作家 | どこでも |
星野芳郎 | 大学教授 | 研究室 |
村松貞次郎 | 大学教授 | 家 |
山田宗睦 | 大学教授 | 家 |
吉野俊彦 | 評論家 | 家・書庫 |
やはり9人が自宅の書斎及び書庫について述べている。5人が外に書斎となる場所を求めている。そして、自前で自宅外に書斎を持っている人間は、立花隆氏ひとりである。他に喫茶店・電車というのは公共の場所の利用である。この年代の状況としては、家を建てる時に自分の城として書斎を作るという考えがかなり主流である。この状況を端的に述べたのが、星野芳郎氏の一文である。引用してみよう。
現在、東京近郊で私が文筆業をいとなむとすれば、最低八〇坪の土地と五〇坪ぐらいの職住一体の建築物を必要とする。この金額、少なくとも七五〇〇万円は見なければならない。<一部省略>と言うような次第で、今の私の場合、まあざっと一億円ぐらいの金を手にしていないと、この営業、東京近郊ではやって行かれない。こういう点では、文筆業も開業医や弁護士と変わりはない。原稿用紙とペンと机がありさえすれば、文筆で暮せるというものではないのである。
これは、バブルがはじける5、6年前に書かれたものである。結局星野氏は、京都の家を処分して東京に戻ってきて、大学の研究室を書斎とするのである。タイトルも「職住分離型書斎の経済的背景」である。これからの書斎は、どうなのだろう。家に書斎なのか、外に書斎か、どちらだろう。これは、経済的観点、仕事のスタイル、仕事の性格などによって様々な考え方があるだろう。今回は問題提起ということで、ここで止めておくが、未来の書斎を考える上で、非常に参考になる一冊であることは間違いない。
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